アンドロゲン遮断療法(ADT)を行った前立腺がん患者で心血管疾患(CVD)による死亡リスクが上昇することがこれまで複数の研究から示唆されていた。しかし,ダナ・ファーバーがん研究所,Brigham
and Women's病院,ハーバード大学(いずれもボストン)のPaul L. Nguyen助教授らが非ホルモン抵抗性で転移のない前立腺がん患者を対象としたランダム化比較試験(RCT)のメタアナリシスを行ったところ,ADTを受けた患者でCVDによる死亡リスクの上昇は認められず,前立腺がんによる死亡と全死亡のリスクは低下するとの結果が得られた。詳細は
JAMA(2011;
306: 2359-2366)に発表された。
11件のRCTを解析
ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)アゴニストによるADTは前立腺がん治療の柱の1つだが,最近,CVDによる死亡リスクの上昇と関連することを示す複数の研究が報告されている。これを受け,米食品医薬品局(FDA)はADTの安全性について警告するとともに,関連学会と合同でADTと心血管イベントとの関連性について声明を発表した。しかし,同リスクの上昇は認められないとする研究もあった。
そこでNguyen助教授らは今回, 転移のない前立腺患者を対象としたRCTのメタアナリシスを行い,ADTとCVDによる死亡,前立腺がんによる死亡,全死亡との関連性について検討した。対象は,GnRHアゴニストによるADT群とADT非施行の対照群を中央値で1年以上追跡したRCTで,心血管疾患による死亡のデータを含む8件(4,141例,追跡期間中央値7.6~13.2年)とした。前立腺がんによる死亡と全死亡の解析には,CVDによる死亡データを欠く別の3件(664例)のデータも用いた。
その結果,CVDによる死亡率はADT群で11.0%,対照群では11.2%で有意差はなかった(P=0.41)。また,同死亡率は短期試験(治療期間6カ月以下)に限るとADT群で10.5%,対照群では10.3%(P=0.99),長期試験(同3年以上)に限るとそれぞれ11.5%,11.5%(P=0.34)で,いずれも有意差はなかった。
患者の年齢は結果に影響せず,中央値が70歳未満と70歳以上のいずれの場合にも,ADTとCVDによる死亡リスクに関連は認められなかった。
前立腺がんによる死亡率,全死亡率は改善
一方,前立腺がんによる死亡率は対照群の22.1%に対してADT群では13.5%と有意に低かった〔相対リスク(RR)0.69,P<0.001〕。また,全死亡についても,対照群の44.4%に対してADT群では37.7%と有意に低かった(RR
0.86,P<0.001)。
Nguyen助教授らは「ADTはCVDによる死亡リスクを上昇させることなく生存率を改善することが分かった。この結果は,ADTを検討している多くの前立腺がん患者の安心材料となるであろう」と述べている。
一方で,同助教授らは「今回の結果を解釈する上で留意すべき重要な注意点」として,(1)検討した試験はいずれも併存するCVDで層別化していなかったため,今回の解析では(コントロールされている疾患も含め)CVDを有する患者集団ではADTが同疾患による死亡リスクを上昇させる可能性がある(2)今回の解析では全体的なCVDによる死亡について評価したが,ADTを受けた患者ではADT開始後早期にCVDによる死亡が発生することが指摘されており,その可能性は排除できない—ことなどを挙げている。
合併症リスクの高い患者には適切な二次予防を
トーマスジェファーソン大学キンメルがんセンター(ペンシルベニア州フィラデルフィア)のWilliam K. Kelly, Leonard G.
Gomellaの両教授は,同誌の付随論評(2011; 306:
2382-2383)で「CVDを有し,ADTによる合併症リスクの最も高い患者には,米国心臓協会(AHA)が勧める適切な二次予防(脂質異常症治療,降圧療法,血糖低下療法,抗血小板療法)を行うべきである」と強調。「ADTは数十年来行われている治療法であるが,前立腺がんの治療に当たる臨床医は,この生化学的去勢による短期的および長期的な生物学的影響に関して依然,解明の途上にある。しかし,これらの合併症に関しては理解が深まったといえるであろう」と述べている。