平成9年10月16日にいわゆる「臓器移植法」が定められ日本においても脳死からの臓器の提供が可能になりました。まだまだ問題点もあろうかとは思いますが将来しだいにより充実した法律に成って行くことを望んでおります。
また、平成10年9月頃から私たちの施設でも「脳死からの臓器提供」可能な病院になりそうな様子です。
ここに、掲載している脳死判定の用紙は、この「脳死からの臓器提供」の際に使用する様式とは異なった様式ではありますが基本的な概念はまったく同じものです。
ここでは,いわゆる脳死の判定がどう言った基準で行われているのかということについて述べてみたいと思います。脳神経外科以外の医師の方にとっても一般の方にとってはなおさら非日常的な現象ですが非常に大切なことでもあります。人の死と言うものを考える上でも役に立つものと思います。
昭和58(1984)年に厚生省科学研究費助成金特別研究事業として「脳死に関する研究班」が設けられ全国の主要な脳神経外科,救命救急センター,神経内科の合計713施設に対して症例の調査が行われました。その調査結果をふまえて昭和60(1986)年に現在日本の脳死判定の模範となる「厚生省脳死判定基準」(新基準)が発表されました。新基準以後は,各施設でこの基準を基に脳幹誘発反応,脳血流シンチグラフィー,脳血管撮影などを加えるなどしています。
厚生省「脳死に関する研究班」
竹内 一夫 武下 浩
高倉 公朋 島薗 安雄
半田 肇 後藤 文男
患者氏名 性別 年齢 歳 生年月日 明大昭平 年 月 日
疾患名: 合併症:
判定に影響する薬物:有 無 ( )
判定前の確認:(1)低体温(有 無) (2)急性薬物中毒 (有 無)
(3)内分泌、代謝異常(有 無)
|
第1回判定 |
第2回判定 |
|
| 平成 年 月 日 時 分 | 平成 年 月 日 時 分 | |
| 1)生命兆候 | ||
|
体温 |
℃ | ℃ |
| 血圧 | / mmHg | / mmHg |
| (昇圧剤) | ||
| 心拍 | /分 | /分 |
| 2)深昏睡 | ||
| JCS (III-3方式 ) | ||
| GCS | ||
| 自発運動 | 有 無 | 有 無 |
| 除脳硬直あるいは 除皮質硬直 | 有 無 | 有 無 |
| 痙 攣 | 有 無 | 有 無 |
| 3)瞳孔径 | 右 mm 左 mm | 右 mm 左 mm |
| 4)脳幹反射 | 右 左 | 右 左 |
| 対光反射 | 有 無 有 無 | 有 無 有 無 |
| 角膜反射 | 有 無 有 無 | 有 無 有 無 |
| 毛様脊髄反射 | 有 無 有 無 | 有 無 有 無 |
| 眼球頭反射 | 有 無 有 無 | 有 無 有 無 |
| 前庭反射 | 有 無 有 無 | 有 無 有 無 |
| 咽頭反射 | 有 無 有 無 | 有 無 有 無 |
| 咳反射 | 有 無 有 無 | 有 無 有 無 |
| 深部反射 | 有 無 有 無 | 有 無 有 無 |
| 有りの時 | ||
| 皮膚表在反射 | 有 無 | 有 無 |
| 有りの時 | ||
| 5)平坦脳波 (部分的に50μV/20mm) | 有 無 | 有 無 |
| 6)自発呼吸 | 有 無 | 有 無 |
| 無呼吸テスト
*100%酸素で10分間人工 呼吸後(PaCO2を40mmHg にする)10分間人工呼吸器をはずし6l/minの酸素定常流とする
|
PaCO2 前 mmHg → 後 mmHg
PaO2 前 mmHg → 後 mmHg |
PaCO2 前 mmHg → 後 mmHg
PaO2 前 mmHg → 後 mmHg |
| 検査判定者 | 医師
医師 |
医師
医師 |
平成 年 月 日 時 分の状態が6時間以上( 時間)持続したため、ここに
患者 殿を脳死と判定します。
平成 年 月 日 時 分
医師 印 所属
医師 印 所属
今後,上に記載しました個々の検査内容について,もう少し具体的に説明していく予定です。
<脳死についての私見>
脳死の問題は,マスコミでも取り上げられ様々な議論がなされておりますが一般の方が脳死という問題を具体的に考える機会は限られています。実際,脳死が問題となるのは救命救急センターの様な比較的高度な医療機関に限られていますし,そのことが医療人の中でさえ理解が十分であるとは言いがたい大きな理由となっているように思います。
私の施設に於いても脳死になる患者さんはしばしばおられますが,その脳死となった患者さんの様子を毎日見ておられる家族の方々は医者が想像する以上に脳死と言うものを理解しておられるようです。
物事は実際に体験してみないと理解しにくいものですし,経験のない事に関して,また経験のない人との議論はうまくかみあわず困難なものです。
脳死と言う問題は今後ますます出てくると思われます。一般の方が身近に見る機会も増えてくると思います。また,脳死は今日のように議論されるまでもなく昔から脳神経外科の領域に於いては日常茶飯事に起こっていたことです。それがどうしてさかんに問題とされるようになったのかと申しますと,臓器移植と言う問題との絡みがあるからです。そして脳神経外科医にとっては,臓器移植ということと脳死判定は全くつながりのないことでした。しかし,最近は臓器移植に関しても無関心ではいられません。インフォームド・コンセントと言うことがあるからです。
私は実際には,もうこの患者さんは助からないと判断した場合には,そのことを時間をかけて家族の方に説明した上で次の3つの選択をしていただくことにしています。この際脳死の判定はまだしていません。
この3番目の事は,主治医としては言いにくいことかもしれませんが,インフォームド・コンセントという観点からするとどうしても言わなくてはなりません。隠してしまうとすべてをインフォームしたことにはならないからです。また,もしかすると患者さんは元気な時に腎バンクやアイバンクに登録しているかもしれません。しかし,そのようなことは,家族の方からは絶対に言い出せないものです。以前に私が実際にそのことを教えられたと言う経験があります。移植の話を先生に言い出していただいて救われましたと家族の方から言われたことがありました。移植をすることによって患者さんの体の一部が生き続けていると考えることにより気持ちが少しでも安まるとのことでした。
一方で,家族の方から脳死の判定を希望されることもあります。その時には,厳密な脳死判定を施行した後で上記の3つの選択をしていただくことになります。
もし、「臓器提供意思表示カード」を所持しておられた場合には移植コーディネーターの方に来ていただいて詳細な説明をさせていただくことになるでしょう。
![]() |
(日本の臓器移植についてのホームページも見ることができます。)
脳死判定をすると言う限りは,主治医としてはなすすべの無い最期に,脳死の判定をした上で客観的に回復の可能性が無いという事を患者さんの家族に理解していただき,上記の3つの選択(「臓器提供意思表示カード」を所持しておられた場合には脳死からの臓器提供の説明)を提示するというところまでが必要であると考えます。逆に臓器提供の話まで出来ないのであれば脳死の判定はする意義が薄い様に思います。これは医師としての使命だろうと考えます。